※細かい設定は考えてませんが、成人してて同棲してます。
※攻め喘ぎ / 受→攻のフェラと乳首責め / 受けの♡喘ぎ などを含みます。
Love lone eyes
日吉の、強い目が好きだ。
見つめた相手の皮膚を裂いてしまいそうな、刃物みたいに鋭い視線。黒目はくっきりと濃い輪郭線にふちどられ、怒りにも似た険しい表情で一点をにらんでいる。越えるべき壁を、負かしたい相手を、彼自身の未来を、じっと見すえている。その目の奥に宿る火は、ひそやかながらも激しく燃える彼の生命そのものだ。
幸か不幸か、俺は日吉のライバルでも敵でもない。彼にとって“負かしたい相手”じゃないから、高潔な敵意の目を向けられる機会もめったにない——けど、例外はあった。
「……窓の外、明るくなってきたね」
静かな寝室の中の、夜明け前の色に染まったベッドの上で、日吉は俺の言葉に目を細めた。彼の両手は、俺の手首を握りしめてシーツに押しつけていた。
苦痛を感じさせるほど鋭い日吉の目が、俺の喉元にナイフを突きつける。俺は日吉のライバルでも敵でもないけど、ときどき獲物にはされる。狩られる恐怖におののきながら、戦慄の身震いは陶酔のそれと見分けがつかなくなっていく。このまま狩ってくれたらいいな、って夢をみながら俺は彼の目を見つめ返す。次の一撃で仕留められた俺は、日吉の命をつなぐための糧として体内に取り込まれ、いつか赤い血になって彼の中をかけめぐるのだ。
「……悪い。お前も今日は仕事なのに」
——だけど夢は終わって日吉の目の奥の火は消え、俺の手は痛みから解放された。正気に戻ってしまった日吉は、俺の上で申し訳なさそうに眉を寄せた。
「さすがにもう寝るか。今からじゃ、眠れてもせいぜい三時間程度だが」
「えっ……」
俺はあわてて手をのばし、日吉の腕を引き戻した——裸にされた体にはあちこちに日吉の手やくちびるや舌の熱が残っていて、とてもじゃないけどこのままおとなしく眠りにつくことなんてできそうになかったから。
「だっ、だめだよ。俺、このまんまじゃ眠れない」
「え?」
「だって、こんな中途半端な……。ちゃんと最後までしてくれないと、俺……」
「……」
日吉はぽかんとした顔で停止して(かわいい)、それからため息をついた。
「何回ヤれば気が済むんだよ、お前」
嘲りのような愉悦のような視線が俺を見下ろし、俺の頭は羞恥によってカッと熱くなる。——たしかに俺は今夜すでに日吉の手で二回射精させられて、そのあと五回も六回もナカで絶頂させられて、さらにそのまま何度も突かれてコスられて死にそうになって結局何回イかされたのかわかんないけど、それは一時間前までの話だ。おふとんのなかで日吉とじゃれあっていたら、残り火はあっというまに勢いを取り戻してしまった。
「日吉のせいじゃん。日吉が全然やめてくれないから、あんな……」
いつにもまして強引だった、今日の日吉の手つきを思い出す。骨に響くほど痛く抱きしめてきた腕の必死な力を、幾度となく俺を切り裂いた視線の鋭さを、思い出す。記憶をたぐるだけで肌の上に快感がよみがえり、くちびるからは熱い息がもれた。
「……ね、もういっかいだけ……」
体の芯を燃やすような衝動のまま、俺は起き上がって日吉をベッドに押し倒した。形勢逆転だ。
「おい、やめろって——」
「やだ。俺も日吉のこと触りたい」
腹筋のなめらかな起伏を撫でて下腹へ進み、日吉のペニスを握る。根元からさきっぽまで、長いストロークで全体をしごく。少しずつ動きを速くしていったら、日吉はやがてせつなげに目を伏せ、手の甲で口元を覆って、かすかな声をもらしはじめた。いつのまにか乳首もぴんと立っていたから、俺はその突起を舐めたり吸ったりしながら手を動かし続けた。そしたら日吉の体の反応はどんどん鋭敏になって、彼の痙攣によってマットレスが揺れた。俺の手の中のモノはすっかり硬くなり、ときどき根元が疼くように脈打つのが手のひらの皮膚に伝わってきた。
「……っ、ん……ぁ」
「……日吉、声かわいい」
「っるせえ、よ……ッ」
「ねえ、日吉だってまた勃ってるよ? ひとのこと言えないじゃん」
「お……お前が触るからだろ。ただの生理現象だ」
「え~……」
俺は“生理現象”だけじゃないのに……って思いながら、日吉の胸の薄い肉に歯を立てる。軽い苦悶の声が上がる。胸からお腹へ、お腹から腰へと唇をつけながら歩き、十歩めでペニスの先端に吸いつく。ちゅって音をたてて短いキスをくりかえすうちに、日吉の息はどんどん深く、荒くなり、俺の舌には彼の体が分泌する粘液の苦味が伝わった。
「っ……お前、ホントに睡眠時間なくなるぞ……」
「べつにいいよ。きょうは特別だもん」
ベッドの脇の窓の、カーテンのむこうから、光とも呼べないほどのぼんやりとした明るさが落ちてくる。その青紫色のヴェールの中でもはっきりと見てとれるくらい、日吉のペニスは充血して赤かった。ぱんぱんにふくらんだところに血管が浮いて、エッチな角度で反っていて……口の中にいれて舐めしゃぶると、悶絶するみたいにビクビクって暴れだす。
「ぁ、あッ……」
指先で乳首をいじりながら亀頭を舐めたり、舌先で鈴口をくすぐったり、ほっぺたの裏の粘膜で亀頭をこすったりしているうちに、日吉の声はどんどん甘くとろけていった。“生理現象”だけじゃなくて、心でも感じてほしいなって願いながら、俺は彼の熱を舐め続けた。力を抜いてやわらかくした舌で、亀頭もサオもタマも全部。すみからすみまで優しく舐め回して、日吉が気持ちよくなったところで一時停止する。寸止めの俺のイジワルに、日吉の腰が跳ね、背中が反る。その悩ましげな反応を見ていたら興奮してきて、俺はいつのまにか日吉のを舐めながら自分のペニスをしごいてしまっていた。
「んっ……♡ ね、日吉も気持ちいい?」
「……」
「ねぇ、もう挿れたいよね?」
日吉は歯を食いしばるように顔をゆがめた。返事を聞かなくたって、まっかになった頬や汗びっしょりの胸元や、ひっきりなしに痙攣している下腹を見れば答えは一目瞭然だった。しつこくしゃぶり続けていると、やがて日吉の腰は上下に振れ始め、彼のペニスは俺の喉を突き始めた。
「……んっ、ぅ……♡」
「っ……——クソッ!」
日吉の声とともにベッドがきしみ——次の瞬間、俺の体はまたシーツにはりつけられていた。日吉は荒々しい手つきで俺の両脚を持ち上げると、唾液によって濡れたペニスを俺の股にぐっと押しつけた。
「……っ♡」
ガチガチに勃起した男性器が、俺のペニスや陰嚢をいじめるみたいにこすりながら滑って、やがてその先端を後孔に突き立てる。穴の表面を躾けるように、ほんの浅くだけ入ったり、出たり、入ったり、をくりかえす。日吉はまた捕食者の視線で俺の目を刺しながら、親指で俺の口のなかを掻き回した。歯や舌を触ってくる指先が気持ちよくて、気づいたら俺はその指にしゃぶりついていた。
「……挿れるぞ」
「んん……♡」
口から親指が抜け、後孔にペニスが入ってくる。何十回、何百回とセックスを重ねても、この一瞬に感じる恐怖は消えない。どんな手段を使ったって償えない罪を犯すような恐怖と、その恐怖を源泉にして無限にあふれてくる快楽。日吉のペニスに貫かれながら、からだじゅうの細胞が歓喜にふるえる。痛みを呼吸で逃がして、前立腺を掻かれる快感を脳いっぱいに受け止めて、世界でいちばん大好きなひとに犯される幸福でアタマがおかしくなってくる。
「はぁ、っ……♡」
「……痛くねえか」
「ん……だいじょうぶ、だよ……」
もう何十回も何百回もしてるのに、日吉はまるで初めての一回みたいに俺を気遣った。言葉と同じくらい腰遣いも優しかったから、俺は体の奥をゆるゆると突かれ、じれったい快感で正気を壊されそうになる感覚に必死で耐えなきゃいけなかった。膨張しきった日吉のペニスは俺のナカの空洞を隙間なく満たし、俺の気持ちいいところ全部をめちゃくちゃに刺激していった。
「ぁ♡ あっ……♡ ね……ねぇ、日吉……」
「……なんだよ」
「キスしたい、俺……」
とん、とん、とん、って俺の奥をノックしてから、日吉は俺の唇を奪った。やわらかいくちびるでくちびるをあやされて、舌と舌がからまった。うっとりするような快感を流し込まれた自分の体が、日吉のペニスをギュッて締めつけるのがわかる。
「んっ……♡ ふぁ……きもちいい……♡」
「……ん」
「ね、日吉……♡ ぁ……あっち行っても、しないでね、浮気……」
「はぁ?」
呆れ声と同時に、日吉の動きが止まる。——次の瞬間、強いひと突きが俺の奥をまっすぐに打った。
「やッ——ぁ♡」
「バカにしてんのか? お前」
「……な、なんで……」
「俺は仕事しに行くんだよ。んなこと考えてる余裕なんかあるわけねえだろ」
「そう、だけど……っ」
——そうだけど、そういうことじゃないじゃん。
胸のうちでモヤモヤがうずまく。けど、そんなのも電撃みたいな気持ちよさにさらわれて消えていく。腰の奥に叩きつけられる快感が脳を撃ち、お尻からふとももを走って、つまさきまで伝播する。さっきより強く、逃げられない攻撃にさらされて俺はあっけなくイってしまいった。だけど日吉は動きをとめてくれなくて、俺の中ではいつまでもイき終われない快感がばかみたいに回り続けた。
「日吉、だめ、今は速いのダメ……っ! またイっちゃうから、だめぇ……っ♡」
だめ、だめ、って俺がわめけばわめくほど、日吉の目の奥の火が強く燃えさかる。だから俺は自分が本気で拒絶しているのか、それともただ日吉の火を煽ろうとしているのかわかんなくなってくる。日吉はナカを執拗に責め続けながらペニスや乳首にまでふれてきたから、俺はもう全部が気持ちよすぎて怖かった。
「……お前こそ、ここに誰か連れ込んだりするんじゃねえぞ。俺がいないからって」
「しっ、しないよぉ……♡ だって、俺は……」
だって“俺は”日吉だけが好きなんだから——って続ける余裕もないまま、日吉がくれる快楽に意識を溶かされていく。ナカの気持ちいいところを重たくえぐられて、同時に射精させられて——自分の奥に日吉の精液が注がれるのを感じながら、俺はただ彼の体にしがみついていることしかできなかった。
***
今夜の日吉はいつもより強引だった。お別れの直前だから、きっと必死で俺のことを欲しがってくれたんだと思う。
「……あーあ、俺も空港まで行きたかったな。やっぱり仕事、休みにすればよかった」
「おおげさなんだよ、お前は。長期出張っつってもたかが一か月だぞ」
夜明けの色になった寝室の中で、日吉は荷物を点検しながら言った。主要な生活道具はすでに出張先に送ってあるから、手荷物は小さなスーツケースひとつだけだ。
「……俺には長いよ、一か月だって」
毎朝仕事のためにこの家を出て、夜まで日吉に会えないだけでも寂しいのに、一か月も離れ離れになったらその寂しさが何百倍、何千倍って膨らみそうだ。とてもじゃないけど、「たかが」なんて俺には思えない。
「ねぇ、一日に一回は連絡してね。短くてもいいからさ」
「ん……まあ、時間があったらな」
「え~……絶対してよ」
「……めんどくせえな、お前」
「……ごめん」
日吉の声がけっこう本気で険しかったから、俺もけっこう本気でうなだれてしまった。日吉はスーツケースを閉じ、ベッドの上に戻ってきて、スマホの画面とにらめっこを始めた。たぶん仕事のメールか何かを見ているんだろう。
今回の出張は、彼のキャリアにとってほんとうに大事な仕事なんだそうだ。飛行機で海を越えた先に、日吉にとって越えるべき壁が、彼自身の未来が、ある。だからきっと明日からの日吉には、家で留守番をしている恋人のことを考える時間なんてない。日吉はさっきみたいに夢中で俺を抱いてくれるし、いつも俺のことを愛して大切にしてくれるけど、あの「強い目」が本当の意味で俺を向くことはない——俺は日吉のライバルでも敵でもないから。闘争の目と捕食の目は、しょせん似て非なるものなのだ。
「日吉、子供の頃から変わんないな」
「は? ……急に何の話だ」
「……べつに。なんでもない」
「はぁ?」
日吉は怪訝そうに俺を一瞥し、だけどそれ以上の追及はせずスマホに目を戻した。俺は窓からの白い光に照らされる彼の髪のきらきらを見つめながら、遠い昔の景色を思い出していた。
あの日——今日はそろばん塾があるから、と言って俺の誘いを断った日吉はその直後、そろばん塾のことなんて完全に忘れて跡部さんたちの試合に見入っていた。俺の誘いはそろばん塾に負けたけど、あの試合はそうじゃなかった。まだ幼かった彼の魂が長い洗礼を受けたあと、日吉は俺の横で、俺には見えない未来を見ていた。俺はあのとき初めて、日吉の目の奥に本気の火がつくのを見た。
夕焼けのオレンジ色に包まれた世界の中で、彼自身の未来を射抜こうとしていたそのまなざしはあまりにも美しかった。だから俺の心は理屈抜きに、彼と同じ道へ進むことを決めてしまったのだ。
そのまなざしによって射抜かれるのが自分じゃないってことは、最初から知っていた。
「……日吉、そろそろ時間だよ」
「ああ……うん」
日吉はスマホを手放し、身支度を整え、軽い朝食をとってから玄関へ向かった。今日のためにクリーニングに出したスーツを着たその姿は、朝の清潔な空気のなかでいっそうキリッとして見えた。
「気をつけて行ってきてね。無事に着いたら連絡ちょうだい」
「ああ。……じゃ、行ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
いつもと同じ朝の挨拶で、俺は旅立っていく日吉の背中を見送った。あの試合の日もこんなふうに、後ろから彼の背中を見つめていたなって思い出しながら。日吉もいつもと同じように静かに部屋を出ていって、俺もまたいつもと同じように、鍵を閉めるためにドアに手を伸ばした——瞬間、いつもと同じじゃないことが起こった。
ガチャン、と乱雑な音をたててドアが開き、日吉が玄関に戻ってきたのだ。
頬を赤くした日吉は、焦ったような顔で俺の目を覗き込んだ。
「どっ、どしたの?」
「……悪かった、さっきの。訂正する」
「へっ? ……あ、もしかして……一日一回連絡してくれる?」
「や、そうじゃなくて……」
と言いかけて、日吉は言葉を切った。
「……あ、いや、まぁそれもそうだが」
「ほんと? ……それ以外にもなにかあるの?」
「だから、その……」
困った子供みたいな顔で言い淀んでから、日吉は俺の手をとった。汗ばんだ熱い手が、俺の指を握る。
「仕事で余裕がないとか、そういう問題じゃない。余裕があろうがなかろうが、俺が好きだと思うのは鳳だけ……だから、浮気なんてする理由、あるわけない」
「……え……」
「だからお前も、ここで俺のことだけ考えて待ってろ」
「……う」
うん、って答えるより早く日吉は俺の唇を奪い、それから俺の体をぎゅっと抱きしめた。セックスの最中にされたのより、もっと強い力だった。
「ひ……日吉、スーツにシワできちゃうよ? せっかくクリーニングしたのに……」
「……」
日吉はなごりおしそうに体を離し、さっき以上に赤くなった顔で俺をじっと見つめてから、ふたたび部屋を出ていった。俺の脳裏には、俺のことを見つめていた日吉の目の光が残像として焼きつけられた。
日吉のあんな目、俺以外の人は絶対に見られない。いとしさに満ちていて、照れくさそうに不器用に揺らぐ、とびきりかわいい目だ。
「……ぜいたくだな、俺」
俺はきびすを返して部屋に戻った。まだ日吉の匂いが残っている毛布をたたんで、さっき彼が使った食器を片付けて、自分の出勤のための準備をする。ドアを開けて外に出たら、朝の空気がふわりと頬を撫でた。
俺は今夜から、日吉のいない部屋で日吉のことだけを想って過ごすんだろう。それはやっぱりぜいたくな時間の使い方だって、静かな朝の街を行きながら思った。
***
日吉の、強い目が好きだ。俺の心を焦がし続ける、未来を貫く目。闇を裂く光。幼い頃からの、俺のあこがれ。
あこがれは近づきすぎたら消えちゃう幻みたいなものなのに、俺のそれはいつまでも消えない。俺は誰よりも近く日吉の隣を歩きながら、この幸福な寂しさをずっと噛みしめていくんだろう。
手に入らないから輝き続ける、俺の永遠のあこがれ。
[24.12.31]